ことのはかるたには、決まった遊び方だけがあるわけではありません。

札を並べて、**「今の自分が気になる一枚」「好きな一枚を選んでください」**と声をかけてみる。

たったそれだけでも、思いがけない会話が始まることがあります。

「母」 一番会いたい人

好きな札を選んで文作練習をしたとき、ある学習者は迷わず「母」を選びました。

日本に来てからずっと会えていない、一番会いたい人だと話してくれました。その目には涙が浮かんでいました。

「母」という漢字は、もちろん日本語学習のための一つの文字です。

けれど、その人にとっては、遠く離れた大切な人につながる言葉でもありました。

漢字一文字が、その人の背景や思いを引き出す瞬間でした。

「日本」 将来の夢と、今の思い

別の学習者は、迷わず「日本」の札に手を伸ばしました。

「将来、日本に住んで、日本人になりたい」

そう明るく話してくれました。

一方で、先月お父様が病気になり、簡単には帰国できない現実に心を痛めていることも話してくれました。

「日本」という一枚の札から出てきたのは、日本語の例文だけではありませんでした。

そこには、彼の将来の夢と、今抱えている思いがありました。

「休む」から「食べる」へ

ある学習者が最初に選んだのは「休む」でした。

「毎日、学校とアルバイトの往復。今いちばんしたいことです」

ところが、写真を撮るときには「食べる」を選び直しました。

「一日二回は納豆と卵をかけて食べています。納豆が大好きです」

今度は笑顔で話してくれました。

初めて会った頃は「納豆なんてとんでもない」と言っていた彼。それが二年の間に、すっかり納豆好きになっていました。

一枚の札が、学習者の変化や成長まで映し出してくれました。

使い方のヒント

やり方は、とても簡単です。

かるたを広げて、

「好きな札を一枚選んでください」

と問いかけます。

そして、

「どうしてこの札を選びましたか?」

「この言葉を使って文を作れますか?」

「この言葉から思い出すことはありますか?」

と、少しずつ会話を広げていきます。

正しい文章を作ることだけが目的ではありません。

自分で一枚を選ぶことで、その人自身の経験や気持ちと日本語がつながっていきます。

「母」「日本」「休む」「食べる」。

同じ札を選んでも、そこから出てくる話はきっと一人ひとり違います。

ことのはかるたは、言葉を覚えるための札であると同時に、その人の中にある言葉を引き出す札にもなるのかもしれません。